私は、パズルの中でもとくに立体パズルが脳によいと主張し続けてきました。手先を動かすから脳が刺激される──。そんなわかりやすい効果を指摘したいのではありません。立体パズルならではの効果は「メンタルローテーション」にあります。立体パズルをあちらこちらから眺めて、臨機応変に視点を変更する練習を続けていると、実際にパズルを手で回転させなくとも、頭の中で3D回転させてイメージできるようになります。これがメンタルローテーションです。
これは、サッカーのキラーパスやゴルフのライン読みの基礎となる能力です。また、小説や新聞を読むときには、固定的な解釈をするのでなく、様々な視点から立体的に考察する必要があります。こうした自由な視点変更にもこの能力が関与しています。さらに驚くことに、メンタルローテーションが上手い人は、カラオケで音痴が少なく(音程は脳内で立体表現されています)、外科手術でもミスが少ないのです(手術具の操作や臓器のイメージは立体表象です)。
立体パズルは脳の活性化にとくに効果的なツールです。今回の創刊を心から喜んでいます。
1970年静岡県生まれ。脳研究者。1998年東京大学大学院薬学系研究科で薬学博士号取得。同年、東大助手に就任。コロンビア大学客員研究員、東大准教授を経て、2014年より教授を務める。神経科学および薬理学を専門とし、脳研究を通じて健康や老化を探求。『海馬』(糸井重里との共著、新潮社)や『進化しすぎた脳』(講談社)など、最新の脳科学の知見をわかりやすく伝える著書は多くのファンを得ており、ベストセラー多数。